CASE STUDY Vol. 1
多職種の情報共有、連携強化を実現した多職種連携情報共有システム
「バイタルリンク」
数尾診療所(大阪府藤井寺市)
早くから在宅医療に取り組み、訪問看護師や薬剤師、ケアマネジャー等と在宅医療サポートシステムを構築してきた、大阪府藤井寺市の数尾診療所。多職種連携強化に向け、多職種連携情報共有システム「バイタルリンク」を導入した。バイタルデータや各職種の連絡事項をリアルタイムに関係者が共有でき、連携強化を実現した。
いち早く在宅医療サポートシステムを構築
数尾診療所が在宅医療に取り組みだしたのは、20年ほど前に院長の数尾展氏が診療所を継承したときに遡る。最初の約10年間は在宅患者数も末期がん患者を中心に延べ60人程度だったが、在宅療養支援診療所が診療報酬制度に盛り込まれ、2012年に機能強化型が制度化されてから在宅医療をさらに強化してきた。
当初は数尾氏1人で実施していた体制も、非常勤医2人、近隣の連携診療所の医師と、訪問看護ステーション、薬局、ケアマネジャーも積極的に参加する在宅チームケアを実現している。患者数も現在は特別養護老人ホーム、有料老人ホーム等の施設患者を含め130人を超える在宅患者を診るまでになった。
在宅医療を進めていく上で、多職種連携の必要性を身をもって感じていた数尾氏は、2006年に藤井寺市医師会の介護保険担当理事に就任したときに医療・ケアマネネットワーク連絡会、通称「いけ!ネット」を立ち上げ、会長として医療介護連携の啓発や研修、共有促進を推進してきた。
多職種情報連携の強化にバイタルリンク導入
訪問看護ステーションと密接な連携を実践し、保険薬局や支援病院とともに在宅医療サポートシステムを構築してきた数尾診療所だが、各職種間の情報共有や連絡手段に課題を抱えていた。当初は電話、緊急性の低い内容はFAXやその後にメールが連絡手段だった。
「外来診療が忙しいときの電話応対は困難だし、FAXは在院時しか見られません。FAXにしろ、メールにしろ、書く時間や場所の制約を受けます」(数尾氏)と課題の一端を話す。
そこで、導入されたのが、帝人ファーマが提供する多職種連携情報共有システム「バイタルリンク」だった。同システムは、患者のケア情報を関係者で簡単に、リアルタイムで共有する「連絡帳機能(SNS機能)」、バイタルデータを計測器から簡単に取得・共有する「バイタル機能」、処方薬剤を管理・共有する「おくすり情報機能」、多職種でケアスケジュールを管理する「カレンダー機能」などを有している。
「医用画像なども含め多くの診療情報を共有するシステムを構築しているケースもありますが、必要最低限の情報共有機能を有していることが、現場で必要とされているし、多職種で有効に利用されると思っています」。バイタルリンクを導入しようと考えた背景を数尾氏はこう述べる。
バイタル変化から増悪の予兆を把握
同システムは2015年10月末から試験運用を開始し、数尾氏、自院の看護師、訪問看護ステーションの看護師、保険薬局の薬剤師、ケアマネジャーが、それぞれパソコン、スマートフォンやタブレット端末で利用している。
バイタルデータは、診療所の看護師および訪問看護師が訪問した際に必ず計測・アップロードしており、数尾氏も1日3回ほどはアクセスして更新されたデータを参照するという。「終末期の患者さんは、看取りの2、3日前からバイタルが急激に悪化することがグラフで見て取れます。バイタルリンクを経時的に閲覧することで、対応に備えることができます」(数尾氏)と、増悪の予兆検知に役立っていると話す。そして、関係者全員がデータを共有し、変化によって容体を推察できる点が有用だという。
バイタルリンクでは、計測したデータを、対応した血圧計、体温計、パルスオキシメーターにスマートフォンをかざすと自動的にデータを取り込み、送信ボタンをタップするだけでサーバーにアップロードされる。「その場で簡単に作業が済みます」(看護師 松浦友子氏)と容易さを強調する。
一方、連絡帳機能の運用の成果として、FAXやメールでの連絡に比べ、頻度が明らかに多くなり、半面その手間が減少した点を評価している。「メールや電話に比べ内容も濃くなり、かなり詳細な症例検討ができるようになりました」(数尾氏)という。
また、生活保護を受けているケースなど、数尾氏とケアマネジャーが生活環境について直接話をすることも多くなり、「全員が隔てなく相談し合う環境が整った」と話す。
薬剤師の在宅医療への参画モチベーション向上
また、薬剤師が積極的に発言し、ケアに関与してくれるようになったことが、バイタルリンク運用の大きな効果だと数尾氏は指摘する。在宅医療にかかわっているオリオン薬局の薬剤師が各患者の服薬情報を「おくすり情報機能」を使って入力・共有しているほか、用量の変更や残薬確認の情報、あるいは副作用が起こる可能性がある場合は、その情報を掲示して全員に観察時の注意喚起をしている。
「以前は電話やFAXで必要な情報のみ伝えられていましたが、患者さんの状況を同じレベルで共有できるようになり、チームケアの一員であることを改めて感じています。在宅医療へのモチベーションの向上につながっています」(オリオン薬局代表取締役 島岡勇介氏)
島岡氏は服薬コンプライアンスが低下している原因、代替薬品や剤形変更の提案など、数尾氏からの相談を受け、積極的に発言している。「薬剤面の評価や処方提案だけでなく、患者さんの容体変化や精神的な不安定さなども入力しています」と話す。
今後、数尾診療所では、看護師等が常駐する特養やサービス付き高齢者住宅での参加利用や、協力関係にある近隣の機能強化型在支診との診診連携にバイタルリンク運用を拡大していく計画である。