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CASE STUDY Vol. 10

在宅緩和ケアの実現に不可欠な情報共有
患者・家族、病院・地域の緩和ケアチームを結ぶ
「バイタルリンク」

厚生連高岡病院
(富山県厚生農業協同組合連合会 高岡病院)

厚生連高岡病院は在宅緩和ケアを推進するため、地域の医療介護福祉担当者との情報共有・コミュニケーションの強化に向け帝人ファーマの「バイタルリンク」を導入した。在宅療養時や退院前合同カンファレンスにおける有用性などを同病院緩和ケアセンター長の村上望氏に聞いた。

終末期医療の重点施策 在宅緩和ケアを推進

 厚生連高岡病院(富山県高岡市、517床)は、地域がん診療連携拠点病院(高度型)として患者に対するがん治療とともに、診断時点から始まる適切な症状緩和ケアの提供や社会的・心理的なケアも含めた全人的な医療を提供することを重点としている。それを実践する部門が、2016年に開設された「緩和ケアセンター」だ。

厚生連高岡病院
緩和ケアセンター長
村上 望氏

 緩和ケアセンター長を務める村上望氏は、センターの機能として、緩和ケアチーム、緩和ケア外来、緩和ケア病棟、そして在宅緩和ケア支援の4つを柱としている。特に在宅緩和ケアは、開設当初からのコンセプトであり、重点的に取り組んできた。
 「終末期を迎えた患者の多くは、残された時間を家族と過ごすことを希望されます。全人的苦痛の中でスピリチュアルな苦痛は薬剤では改善できず、自身の歴史を含め人生を肯定してくれる家族と過ごすことが、緩和ケア上重要です」と背景を説明する。
 在宅に移行した患者に対する緩和ケアの実現には、地域の主治医をはじめ、訪問看護ステーション、調剤薬局、介護福祉の担当者などによる連携が不可欠である。「緩和ケア病棟での治療や経過情報などを地域の医療介護チームに的確に伝え、全職種で在宅移行後の情報を共有・連携しながら進めることが重要です」(村上氏)。

 在宅緩和ケア推進の病診連携において病状の情報共有のために、2011年10月から高岡医療圏では紙ベースの在宅緩和ケア地域連携パス「たてやま日記」を運用。連携パスの有用性は一定の評価を得たものの、様々な課題があった。
 具体的な課題は、身体症状・経過、STAS(Support Team Assessment Schedule)による痛みや病状評価、本人・家族の要望や関係者間の連絡事項などを記入したファイルは在宅患者のベッドサイドに常備して用いるため、リアルタイムの情報共有が困難であった。特に病院の緩和ケアチームは、患者宅に出向くアウトリーチを行わない限り、情報を得られなかった。そこでICTツールの活用を模索し、2018年6月にたてやま日記に代わって、帝人ファーマの医療・介護多職種連携情報共有システム「バイタルリンク」を導入し、運用を開始した。

視覚的な情報も活用し患者情報把握の精度が向上

 バイタルリンクは、2016年から運用していた富山市で在宅医療を手掛けるやまだホームケアクリニック院長の山田毅氏の推奨を受けたことから、導入に至った。
 バイタルリンクは紙ベースのたてやま日記と比べ、どこからでもアクセスでき記載しやすいことから利用職種・人数とも増加したという。「連絡帳はグループチャット形式のような手軽さから、主治医や訪問看護師に加えて、ケアマネなどの介護職や薬局薬剤師も徐々に記載が多くなりました」(村上氏)。
 連絡帳の記載では、緩和ケア医や主治医、訪問看護師は身体症状について、ケアマネジャーは生活状況・支援について、緩和ケア看護師はACP(人生会議)に関する内容が多い。また、2年ほど前から本人・家族の参照・入力を可能とし、2021年2月からは専用タブレットのレンタルを開始したこともあり、家族の書き込みが増加。38症例を調査したところ、1年間で1500件ほどの書き込みがあり、家族からの書き込みは16~17%を占めているという。「家族の書き込みに医療者が反応することでこの取り組みに参加する意義を認識し、本人・家族の安心感につながっていると思われます」(村上氏)と話す。また専用タブレットで、患者の自宅での様子を撮影・共有することで、家族でも患者の症状やADL(日常生活動作)を的確に伝えることができると連携チーム内で評価されているという。
 このように連絡帳内への画像など視覚的な情報を投稿することによって、より精度の高い報告が可能になっている(図1)。

【図1】視覚的な情報により的確な状況報告が可能に

バイタル情報に加え、写真などによる情報共有は、退院前の患者の状態を連携先に視覚的に伝えることができる。また専用タブレットを活用し家族からもより的確な症状・生活状況の報告ができるようになった。

退院前合同カンファレンスで有用性を示したZoom連携

 バイタルリンクは在宅移行後の情報共有だけでなく、退院前合同カンファレンスでも活用され、有効性を発揮している。
 退院前合同カンファレンスは、病院の緩和ケアチーム、地域の主治医、訪問看護師、ケアマネジャー、薬局薬剤師などが入院中の患者像を共有し、在宅移行後の治療方針や体制を構築する重要な場である。
 従来、退院前合同カンファレンス開催には、在宅移行する患者の病歴、入院時の経過情報など大量の資料をコピーして参加者全員に配布しており、準備する担当者に負担がかかっていた。さらに、全員集合でのカンファレンスは、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、感染対策をした上で参加人数を制限せざるを得ないなど課題が増した。
 そこで、2021年3月よりバイタルリンクのZoom連携機能を活用してリモートでカンファレンスを実施している(図2)。カンファレンスの前に病歴や薬剤情報、担当者および連絡先、看護要約などを緩和ケア専門医・スタッフが役割分担してバイタルリンクに入力。カンファレンス時は、完全ペーパーレスで情報を共有・参照しながらテレビ会議を行う。「バイタルリンクで情報を共有しながらZoomでカンファレンスができることは極めて有用です。事前に参加者全員が情報を把握していることから、カンファレンスの質も向上しました」(村上氏)という。

【図2】Zoom連携機能を活用したリモート退院前合同カンファレンス

Zoom連携機能によるリモートカンファレンス開催は、地域の医療介護福祉担当者の利便性が向上。バイタルリンクによる患者情報の事前把握と供覧の実現により、カンファレンスの質も向上した。

 また、入院中の患者の生活動作などを録画し、カンファレンス時に供覧することにより適正なケアプラン作成にも役立っている。
 2022年度の診療報酬改定で、情報通信機器を用いたカンファレンスの要件が緩和され、4職種(在宅医、訪看、ケアマネ、調剤薬局)全者がリモートで実施しても退院時共同指導料2の算定が可能になった。「改定後、間もないためリモートでのカンファレンス参加率に変化は見られないが、今後リモートによる参加意欲は上がると期待しています」(村上氏)。
 リモートカンファレンスは、患者・家族と主治医、緩和ケア専門医の3者で行われるケースもある。「病院の緩和ケアチームがアウトリーチと同じ環境を作ることができ、在宅看取り率向上の要因になるかもしれません」と期待している。

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