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CASE STUDY Vol. 8

専門医と訪問看護ステーションの連携を
ICTで強化することで在宅ケアの質を向上させる「バイタルリンク」

前橋赤十字病院(群馬県前橋市)
群馬県看護協会 訪問看護ステーション(群馬県前橋市)

前橋赤十字病院では退院後のCOPD(慢性閉塞性肺疾患)患者を支えるため、COPD呼吸器リハビリテーションの地域連携クリニカルパスを構築。在宅患者に対する専門医、訪問看護師、理学療法士、薬剤師など多職種間の連携とコミュニケーションを一層強化するため、帝人ファーマの医療・介護多職種連携情報共有システム「バイタルリンク」を導入した。その背景や狙い、導入による効果を同院呼吸器内科副部長の堀江健夫氏に聞いた。

在宅のCOPD患者を支える地域連携クリニカルパスを構築

 前橋赤十字病院(群馬県前橋市、555床)は基幹災害拠点病院、高度救命救急センターなどの機能を果たすとともに、他の医療機関との連携を深めることで、地域への貢献を続けている。同院の呼吸器内科副部長をつとめる堀江健夫氏は、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の専門医として呼吸リハビリテーションの普及とCOPD患者に対する在宅ケアに力を注いできた。

前橋赤十字病院 呼吸器内科 副部長
クリニカルパス委員会 委員長
堀江 健夫氏

 堀江氏は、前橋赤十字病院で呼吸リハビリテーションを導入した後に退院した患者が、群馬大学での通院リハ、もしくは訪問看護師による在宅ケアに移行する「COPD呼吸リハビリテーション地域連携クリニカルパス」を2006年に構築し、地域医療体制を確立。
 「それぞれの施設の役割分担を明確にするとともに、専門医、かかりつけ医、訪問看護師、薬剤師、理学療法士などの多職種が効率的に情報を共有しながら、それぞれの専門性を最大限に発揮することが重要です」と堀江氏は語る。
 COPD患者の在宅ケアにおいては特に専門医と訪問看護師の緊密な連携が欠かせない。その中で重要な役割を果たしているのが、増悪時の対処法を明示したアクションプラン(行動計画書)だ。調子が悪くなったときに服用すべき薬、緊急外来の受診など、増悪時に取るべき行動を事前に医師から患者に指示したものだ。
 「アクションプランを活用することで入院率が低下し、QOLの低下を防止することができます※1。しかしその実践のためには訪問看護師によるサポートや指導が欠かせません」(堀江氏)

※1 Howcroft et al. Cochrane Database Syst Rev 2016; 12: CD005074

 2006年当時、患者に関する情報の共有は、各種書類や電話、FAXによって行われていた。しかしリアルタイムの正確な情報共有は難しく、「見ていない、聞いていない、言った、言わない」などの問題が頻発していた。2008年以降、PCによる情報共有ツールを導入したが、機能や使い勝手、サポートなどの問題で継続利用が難しくなった。
 そこで2018年に導入されたのが、帝人ファーマの医療・介護多職種連携情報共有システム「バイタルリンク」だった。

タイムリーにつながることでより適切なケアの提供が可能に

 バイタルリンクの導入においては、訪問先や外出先からスマートフォンやタブレット端末などを利用して手軽に情報の閲覧・投稿ができる点、厚生労働省のガイドラインに準拠した2要素認証と通信の暗号化、端末に情報が残らないなどセキュリティ面で安心して利用できる点が選定の重要な決め手となった。
 現在、バイタルリンクは前橋赤十字病院の医師、薬剤師、及び群馬県看護協会訪問看護ステーションの看護師、理学療法士、ケアマネジャーの30名程度によって利用され、在宅患者とそれを支える医療チームのコミュニケーションと連携を担っている。「訪問看護師がバイタルリンクの連絡帳機能【図1】を使って送ってくる文章や画像によって、患者さんの状態をほぼリアルタイムに把握することができます。また、緊急時にはプッシュ機能※2で知らせてくれるため、見逃すことなく即座に対応できます」(堀江氏)

※2 連絡帳機能(【図1】)で新たなメッセージを投稿する際に「重要なメッセージ」にチェックを入れた場合は、登録時に担当者にメールでも内容が送信される。

【図1】連絡帳機能

「連絡帳機能」では患者の状況を手軽に文字や写真で報告し、スタッフ間で共有することができる。訪問看護師の投稿に対して、医師がコメントを書き込むことで、適切な対応が可能になる。また、医師が在宅人工呼吸療法におけるマスクを患者が正しく装着しているかどうかのデータを添付することで、訪問看護師は患者へのマスク装着の指導を効果的に行うこともできる。

 バイタルリンクは、COPD治療において重要な役割を果たすCAT(COPDアセスメントテスト)スコアを含むバイタルデータを長期間にわたって経時的にグラフで表示し、閲覧・管理することができる。群馬大学で研究・教育を行いながら、群馬県看護協会 訪問看護ステーションで訪問看護師としても活動する梨木恵実子氏は「バイタルデータ管理機能【図2】で体重やCATスコアなどを経時的に追っていけるのも有用です。連絡帳によって積み上げられた患者さんに関する文字情報とバイタルデータという客観的な情報を組み合わせることで、患者さんの状態に合わせた、適切なケアを提供することができます」と話す。
 また、群馬県看護協会 訪問看護ステーション管理者の山路聡子氏は「訪問看護師と医師がタイムリーにつながるため、疑問点や不安などもすぐに解消でき、自信をもって対応することができます。さらに、バイタルリンクで医師の指示や担当した看護師による対応を訪問看護ステーションの管理者・先輩看護師とも共有することができるため、経験の浅い看護師の教育にも役立っています」と語った。

群馬県看護協会 訪問看護ステーション管理者で看護師・保健師の山路聡子氏(左)と群馬大学大学院 保健学研究科 看護学(老年・在宅)助教で老人看護専門看護師の梨木恵実子氏(右)
【図2】バイタルデータ管理機能

「バイタルデータ管理機能」では体温、血圧、脈拍数、血中酸素飽和度、体重などのデータをグラフで確認でき、経時的な管理を行うことができる。また、CAT(COPDアセスメントテスト)スコアなどの任意の項目を追加し、経時的な管理を行うことも可能である。

ひとりひとりの患者を理解しより深く寄り添い、支えていく

 前橋赤十字病院では、アクションプランとバイタルリンクの導入・活用によってCOPDの急性増悪による緊急外来の受診率が低下し、医師をはじめとするスタッフの作業負担が大幅に削減された。
 「より適切で積極的な対応が可能になり、再入院率の低下、QOL低下の予防に役立っています。また医学的なデータだけでなく、患者さんやご家族の情報、これまで歩んでこられた人生や背景なども、バイタルリンクで送られてくる文章や写真などによって知ることができます。おかげでより深く患者さんを理解して診療を行えるようになりました」(堀江氏)
 また、山路氏はバイタルリンクによって記録された一人の患者に対する長期間にわたる経過を振り返ることで、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)も視野に入れた、その時期に最善のケアを考え、話し合い、実行していくことができると指摘する。
 堀江氏は「バイタルリンクを含めたICTのさらなる活用によって、医療チームが一人ひとりの患者さんにより深く寄り添い、エビデンスに基づいた適切なケアを提供することで、しっかりとしたアウトカムにつなげていく。そうしたチームで患者さんを支える仕組みづくりを、いっそう加速させていきます」と語った。

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