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CASE STUDY Vol. 6

病診・診診・病病間の効率的なコミュニケーションを実現
より質の高い地域医療の提供に貢献する
「バイタルリンク」

一般社団法人 新宿区医師会(東京都新宿区)
理事 日下生 玄一 氏、 迫村 泰成 氏、 福岡 稔晃 氏、 会長 平澤 精一

新宿区医師会は、ICTネットワークによる多施設・多職種問の効率的なコミュニケーションを実現する「新宿区医療連携システム(通称:新宿きんと雲)」を運用している。このシステムのコミュニケーションツールとして採用されたのが帝人ファーマが販売する医療・介護多職種連携情報共有システム「バイタルリンク」だ。新宿きんと雲はどのように運用され、どのような効果を出しているのか。そのしくみや活用法などをレポートする。

新宿区の多施設・多職種間の連携を支えるツール「新宿きんと雲」

 新宿区は人口10万人あたりの一般病床数が東京23区内でも高水準にあり、医療資源に恵まれた地域だ。しかし、今後の高齢化の進展や独居高齢者割合の高さなどから、医療機関同士の連携による「切れ目のない医療」の提供が強く求められている。

一般社団法人新宿区医師会
会長 平澤 精一氏

 新宿区医師会会長の平澤精一氏は「一生、住み慣れた地域で自分らしい生活を送るための『地域包括ケアシステム』を推進するため、さまざまな医療機関や介護事業者、行政などの関係機関と連携をとりながら、在宅医療や認知症対策など、さらなる医療提供体制の構築を急いでいます」と話す。
 実効的な地域包括ケアシステム構築には多施設・多職種間の緊密な連携と、それを可能にする効率的なコミュニケーション手段が欠かせない。新宿区医師会は2013年に東京都医師会からの委託事業としてクラウドを利用した病院、診療所の医師、訪問看護師、ケアマネジャー、医療ソーシャルワーカー、歯科医、薬剤師などが情報の共有や意見交換などを行う「新宿区医療連携システム(通称:新宿きんと雲)」を立ち上げた。

 「新宿きんと雲」のシステム構築・運用を主導する新宿区医師会在宅ケア・介護保険の担当の理事で、医療法人財団新生会理事長、百人町診療所院長の日下生(くさかい)玄ー氏は次のように語る。
 「地域包括ケアの多職種連携において、連携範囲が広がり、その密度が高まれば必然として、行き交う情報量は二乗的に増加します。従来のFAXやメールなどによるコミュニケーションでは効率やセキュリティの面で限界がありました。相互連絡や情報共有のインフラの整備で、実用的な多職種連携の仕組み、そのツールが求められていました」

さまざまな「部屋」を通して効率的な情報共有・意見交換が実現

 日下生氏は、2017年、新宿きんと雲のさらなる拡大のため、新しいコミュニケーションツールを多様な視点で比較・検討した。
 そこで採用されたのが帝人ファーマが販売する医療・介護多職種連携情報共有システム「バイタルリンク」だ。バイタルリンクはタイムライン形式の連絡帳機能や患者さんのバイタルデータ、服薬情報などを多職種間で効率的に情報共有するクラウドシステムである。
 「バイタルリンクを採用した最大の理由は、多様なユーザが容易に使えるシンプルな作り、ID・パスワードと電子証明書による二要素認証、SSL/TLS暗号化通信など堅固なセキュリティでした。簡単でないと使われません」(日下生氏)
 新宿きんと雲には個別の患者情報を共有する「患者さんの部屋(カルテ)」をはじめ、参加施設間の情報共有の「部屋」、診療科・疾患別の情報を共有する「部屋」、認知症サポート医が精神科の専門医に相談する「部屋」、訪問看護や薬剤師、歯科医など職種ごとの「部屋」などが作られており、現在150名以上が参加している。【図】

【図】「新宿区医療連携システム(新宿きんと雲)」による情報共有・連携イメージ

 たとえば、診療所のかかりつけ医は「部屋」を通して自分の患者さんの疾患について専門医と意見を交換したり、病院の医師に紹介や入退院、治療などについてのコンサルト(相談)を行うことができる。また、病院同士の救急搬送や専門的治療のための情報共有、在宅支援診療所と訪問看護ステーションとの患者情報の共有や治療の指示にも役立っている。連絡帳機能には、スマーフォンのカメラで撮影した検査データや患部の状態などを簡便に画像で添付できるため、患者さんの状態を正確に把握・共有でき、増悪時や看取りに際してもよりスピーディーに適切な対応ができるようになった。
 さらには病院の医師、診療所の医師、在宅支援診療所等の医師が患者情報を共有する「3人主治医制」(複数主治医制)を推進し、主治医が往診対応が困難な際にも、24時間の往診を可能にするサポート体制の実現に新宿きんと雲は貢献している。
 新宿きんと雲は重要な情報を扱うため、クラウドのセキュリティ面は、システム提供責任者として帝人ファーマに委託し、新宿区医師会の統括部門により参加施設の管理者や参加者の登録、使用端末の管理を行っている。患者さんへの説明と同意、個人情報の扱い、セキュリティ対策、インシデント対応などのルールが策定され、厳格に運用管理されている。

新宿区医療連携システム(新宿きんと雲)には、患者さんの情報以外にも、ネットワークの参加者が、下記のような様々な情報を、連絡 や相談、質問、意見交換する各種「部屋」が用意されている。それぞれ部屋の中で活発に意見交換やコンサルトが行われることで、地域包括ケアを提供するネットワークの絆が強化されている。

  1. ①「入院相談の窓口」と「訪問診療医お探し窓口」(病診連携)
  2. ② 新宿区歯科医師と連携した「歯科治療相談室」
  3. ③ 摂食嚥下コンサルトの「ゴックン何でも相談室」
  4. ④「心不全まるごとケアの部屋」病院や循環器専門医へのコンサルト
  5. ⑤「認知症サポート医かけこみ寺」認知症サポート医と専門医との連携
「患者さんの部屋(カルテ)」で、多職種間の情報共有を行う。加えて、多様な情報を共有し、コンサルト(相談)を行うさまざまな部屋(機能)が用意されている

これからの超高齢社会の課題にさらなる展開を目指して

 新宿きんと雲のコミュニケーションツールである「バイタルリンク」を提供しているのが、帝人ファーマだ。
 「新宿きんと雲の運用設計段階から、導入、実際の運用まで帝人ファーマの営業や技術の担当者の方々に、各参加施設の事情や背景及び医療現場に即したサポートをいただいています」(日下生氏)
 今後、新宿きんと雲は、新宿区の質の高い地域包括ケアシステムを目指し、PDCAを回し、さらによりよいシステムになるよう拡大していく考えだ。
 「高齢患者は多数の診療科に関わる疾患を有しているため、医療現場では総合的な医療の知識と判断が必要になります。また超高齢社会では在宅医療に加え、増加する『外来以上、訪問未満』の患者さんへの24時間対応が必要になります。新宿きんと雲による多職種間における効率の高い地域ネットワークを実現することで、これらの課題に対応し、より質の高い地域医療の実践を目指していきます」と日下生氏は語った。

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